今年のいわゆる「シルバーウィーク」は曜日の組み合わせがよく、その後のウイークデイを2日休めば9連休になる。これを使わない手はないので、北海道の道央道東地域へ7泊8日の山旅を計画した。

 スタートは19日の土曜日、関空午後2時発のフライトで新千歳空港に飛び、車中泊も可能なワゴンタイプのレンタカーに乗り換える。天候は残念ながらしっかり雨だ。当初の予定ではまず十勝岳の登山口である十勝岳温泉に向かうところだったが、明日午前中まで雨が続くという予報なので計画をきれいにひっくり返し、最後に訪ねるはずだった釧路湿原にまずは向かうことにした。湿原を歩くだけなら雨もウエルカムだ。

 道東道は最近、釧路手前の白糠(しらぬか)まで開通しており助かるがそれでも遠い。終点の白糠インターで降りる頃には日もとっぷりと暮れ、いったいどんな所を走っているのやら、家屋など人工の灯りなどまったく見当たらず、先行する車も後続車も絶無で対向車もほとんどないメッチャ淋しい真っ暗な道を、ヘッドライトが照らし出す小さな視界に叩き付ける土砂降りの雨だけを見つめながら走り続けること2時間弱、ようやく見つけたオアシスのようなコンビニでなんとか当面の食料を調達し、ホッと一息ついたのだった。「いやあ飢え死にしなくてよかった、やっぱ北海道は広い!」とつくづく思いつつ、釧路市に近い道の駅「しらぬか恋問(こいとい)」で車中泊とした。

 明けて20日は小雨。まず釧路市立湿原展望台まで走り、7:20から1時間かけて同展望台を起点とする一周2.3kmの遊歩道を歩いた。その一角で釧路湿原を見下ろす大展望が得られるが、道はほとんどが展望の利かない森の中を縫っており期待外れ。計画ではこの周遊路からさらに3km先のビジターセンターまで歩き、路線バスに乗って展望台に戻るつもりだったのだが、「ノロッコ号」に乗車する時間の関係で割愛。その代わり、ビジターセンターに車を乗り付けてそこを起点とする3.2kmの木道を一周した。この木道はまさに湿原の中を巡っており、その広大さを実感できる。途中、タンチョウヅルのカップルを目撃し、メスのエゾシカにも二度出会った。

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湿原展望台歩道からの眺め。広大な釧路湿原を一望できるがあいにくの天気でよく見えない

 釧路駅に直行し、11:06発の釧路湿原観察特別列車ノロッコ号に乗る。同列車は武骨なジーゼル機関車が牽く5両編成。日曜日とあって指定席は満席だが自由席で十分だ。釧路駅から塘路(とうろ)駅まで、往路は立ったが帰路は特等席に座って釧路湿原の風景を楽しんだ。釧路駅に戻り付近のスーパーで食料を調達。斜里岳に登るため知床へと長い道をひた走った。

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  ノロッコ号の機関車

 この日の泊地は清里町の道の駅「パパスランドさっつる」。格安の日帰り温泉も併設の道の駅で、駐車場は車中泊族で満杯だ。晴れていれば斜里岳の端正な姿を望めそうだが、この日は頂上にしっかり雲。もう運転することはないので、地元産のジャガイモ焼酎の無料試飲を楽しんで自炊し車中泊した。

 21日は斜里岳登山。4時に起床して行動開始。道標に導かれて舗装路からダートの林道に入り、夜明け頃に登山口の清岳荘駐車場に到着した。早速身支度を整え5:50から登山開始だ。樹林帯をわずかに歩いて出た林道の先から登行が始まる。と、これがなかなか手ごわい。ルートは前日までの雨で増水した一の沢川に沿っているのだが、この道を登るのになんと13回も石飛びの渡渉を要求される。頼りの飛び石は遠いうえ水面下の石もあり、足の短い者には辛い試練だ。これをなんとかこなして6:55に下二段、8:35に熊見峠と進む。熊見峠からは「ふたこぶラクダ」の背のような斜里岳の全貌を望むことができる。さらにひと頑張りで9:30に上二段、そこからの厳しい急登をこなして10:30にようやく快晴の馬の背に着くことができた。

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 熊見峠から望む斜里岳。左側のピークが頂上で、ふたこぶの右側の鞍部が馬の背。ハイマツ帯をなだらかにたどる登山道がよく見えているが、その先から馬の背までがきつい。

 馬の背は斜里岳(1536m)頂上直下の鞍部で、西にはカムイシュ島を浮かべた摩周湖が、また北西には知床連山の山並みとさらに海を隔ててすぐそこに国後島をくっきりと望むことができる。頂上まではあとわずかだが、ここまで標準タイム3時間10分の登りに4時間40分を要した自分の体力と、帰路に再びあの厄介な13回の石飛び渡渉が待ち構えることを考慮して自重。その場に寝転んでたっぷり高山の空気を吸い、その雰囲気を楽しんでから11:25に下山を開始し、14:25清岳荘に帰り着いた。朝登ったダートの林道を下り、途中通過する「パパスランドさっつる」の温泉で昨日に続き再び汗を流してから、長駆して日暮れ前に津別町の「道の駅あいおい」に到着した。

 22日は3時に起きて、真夜中の道を雌阿寒岳の登山口となる野中温泉へ走る。途中、立派な角を持つオスのエゾシカやキタキツネに出会った。野中温泉着は4時半、準備を整えて5:20に登行を開始。ヒグマ除けの鈴を鳴らしてゆくが、夜明けにその日のトップでヒグマの領域に侵入するのはさすがに気味が悪い。しかし、すぐにキノコ狩りの老夫婦が追い越してくれたので、気が楽になった。

 登り始めはエゾマツとトドマツの針葉樹林だが、6:20に到着した三合目が早くも森林限界で、そこから上はハイマツ帯となり展望も開ける。五合目には7:00に到着。天気は快晴、やがて眼下にオンネトー湖が見え、また人工物一つない広大な樹海が果てしなく広がっていて実に豪快な眺めだ。7:20に七合目。雌阿寒岳(1499m)は活火山で登頂が規制されており、いま登れるのはここまで。ということで、いささか消化不良気味ながらこれで登頂とするほかない。8:00に下山を開始し、9:40に登山口の野中温泉に帰着した。その途中、ハイマツ帯でマツタケを採取している夫婦(朝の夫婦とは別)と遭遇。ちょうど奥さんが密生するハイマツの奥に潜り込んでマツタケを見つけたところで、巨大なマツタケを3本収穫している最中だった。男性の横に座っていた犬はふもとの温泉のムクという飼い犬で、ここまで勝手について登ってきたそうだ。

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噴火警戒のため、雌阿寒岳で登れるのはここまで。登山道がロープで閉鎖されている。

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 ハイマツにもマツタケが生えると初めて知った。なかなか立派なマツタケだが、傘が開ききっていて匂いはイマイチだった

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  登山口の温泉宿から夫婦についてきた「迷犬」ムク。かなりのご高齢だ。

 まだ時間は早いが、尋ねてみると入れそうなので温泉で汗を流すことにする。温泉は野中温泉別館と今は宿泊を受け付けていない元ユースホステル、さらにやや登った景福旅館にもあるが、パッと見た感じ、一番景色のよさそうな元ユースホステルに入れてもらった。ここは格安の200円。脱衣所にも籠しかない素朴な湯だが、白濁した湯が素晴らしく、秘湯の雰囲気もたっぷりで楽しませてもらった。

 そこから次の登山口へ移動する手もあったのだが、オンネトー湖から見上げる雌阿寒岳と阿寒富士の姿があまりに美しくて立ち去りがたく、湖に接するオンネトー国設野営場で幕営することにした。野営場から雌阿寒岳は望めないのだが、快晴の昼下がり、湯上りでサッパリした身体に木漏れ日を浴びながら、早くもビールを流し込んでしばしまどろむ、自称「野宿のプロ」には幸せいっぱいの贅沢な時間だった。

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  オンネトー湖から望む雌阿寒岳(左)と阿寒富士。

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  オンネトー国設野営場に張ったテント。

 23日、3時半に起きてテントを撤収し4時前に野営場を後にする。ナビに入力すると次の目的地層雲峡へは180㎞もある。もっと近いと思っていたのでこれは誤算だった。慌てて未明の国道を疾走する。ところどころ霧が出て視界が遮られるが、幸い先行車は皆無で信号もほとんどなく、ロープウエイの始発時間ちょうどに層雲峡に到着することができた。

 ロープウエイとリフトを乗り継いで7:25、七合目から登行開始。大勢の登山者や観光客に次々に抜かれながら、急登の道を自分のペースでゆっくり登ってゆく。8:10に八合目、そして9:20に大雪山黒岳(1984m)の頂上に達した。この日も快晴、緩やかに大地がうねる広大な御鉢平とそれを取りまく外輪山、そして草紅葉が織りなす大観はまさに絶景というに尽きる。お茶を沸かしこの絶景を豪華な副食にゆっくりフランスパンの朝食をとった。黒岳石室に向かう道を半ばまで歩いて撮影してから折り返し、黒岳頂上に戻って11:00から下山、11:50にリフト終点の七合目に戻った。

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黒岳頂上

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  黒岳山頂からの展望。なだらかに丘陵がうねるような天上の別天地だ。中央の歩道を下るとすぐに黒岳石室の小さな小屋が見えてくる。

 層雲峡温泉の日帰り湯を使ってから再び車に乗って旭岳をめざし、日暮れ直前に旭岳ロープウエイ山麓駅に近い東川町青少年野営場に到着。それまでの道中、アーベンロートに燃える旭岳が美しかった。さて、幕営は可能だが日が暮れた今からテントを張るのは面倒だし、管理人が「たまにクマも出る」ともいうしで車中泊とした。

 24日、4時半に起きてロープウエイ山麓駅に移動。朝食を作って食べながら始発のロープウエイを待って搭乗し、6:45に姿見の駅から歩きだした。紅葉は今が盛りで、正面に北海道最高峰の旭岳(2291m)の重厚な山容を望んでいたく登行意欲をそそられたが、前日黒岳を登った際の体調を考えて自重。姿見の池などを見て回る2㎞足らずの散策路を周遊して満足することにした。というわけで、チョーゆっくり休み休み周遊。途中、お茶を沸かしたり、冬支度に忙しいエゾシマリスを映像に収めたりしながら、実に4時間も旭岳を中心とする風景を見つめて過ごした。この日、旭岳と最も長い時間対峙したのは、間違いなく自分であったと思う。

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  姿見の池と大雪山旭岳、重厚で雄大な山容だ。

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  登山道わきで見かけたチングルマの大群落の紅葉。

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  冬支度に余念のないエゾシマリス。ひっきりなしに餌(恐らくハイマツの種子)を拾って口いっぱいに含んで運んでいた。どこかに貯めて越冬に備えるのだろうと思う。

 下山して十勝岳へ。まず登山口の少し下のカミホロ荘で入浴してから、登山口の駐車場に車を上げて車中泊とする。単なる駐車場だがトイレも完備していて野宿者には快適な所だ。食事の準備をしていると、ヒゲのオジサンが下山してきたので山の様子を聞いてみた。オジサンによると、十勝岳は火山のため火山礫の斜面ばかりで紅葉する樹木もなく面白くないとのこと。今の時期、紅葉を楽しむなら富良野岳にすべしと強く勧められたので、それに従うことにして寝る。

 25日、4時前に起きて準備を始めるが、やはりヒグマの山をトップで歩くのは気味が悪いのでダラダラ準備を引き延ばし、同じ頃から準備を始めた隣のカップルがスタートするのを待って5:30、こちらも動き始めた。最初は車も通れそうな整備された道を行く。やがて荒涼とした安政火口を左手に見て谷を渡り、ナナカマドの紅葉が美しい灌木帯の道を上がって7:00にカミホロ分岐に達した。十勝岳へはここを左折するが富良野岳へは直進。そこからダラダラとした上り下りを経て8:40に富良野岳分岐へ、さらに急登をこなして9:30、富良野岳(1912m)の頂上に立った。

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  安政火口付近、荒々しい火口壁を背景に紅葉が見事だ。


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  端正な山容の十勝岳

 頂上からは胸のすくような大展望だ。北には旭岳や黒岳、さらにトムラウシまでも見渡せる。反対の南側には幌尻岳以下の日高山脈の山々、さらにその右手に夕張岳や芦別岳までが同定できた。わけても十勝岳の頂を天に突き上げたピラミダルな山容がひときわ目を引く。なるほど、十勝岳に登っていればこの絶景は望めなかったわけで、前日のオジサンの助言に改めて感謝しつつ、絶景を望んでの贅沢な朝食。まさに登山できる喜びをかみしめる瞬間だ。いやあ、登ってよかったあ。

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富良野岳。山頂は雲海の上、結構風があって寒かった。

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  富良野岳山頂からの眺め。まさに絶景。

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  ちょっと引くとこんな感じ、左奥に大雪山系北部、旭岳などの山並みが見えている。

 10:00に下山開始。盛りの紅葉に後ろ髪をひかれ、キタキツネに出会ったり、たびたび立ち止まって風景を記憶に焼き付けたりしながらゆっくり歩いて13:15、登山口に帰着した。すぐに登山口に隣接する十勝岳温泉凌雲閣で汗を流す。料金は800円と高いが、露天風呂からの展望がこれまた紅葉を眼前に臨む超絶景。料金だけのことはあると納得した次第だった。ちょうど恐らく旅番組と思われるテレビの取材が入っていて、風呂場に出入りするスタッフたちが邪魔だったが、テレビで紹介するだけの値打ちのある温泉ではあった。その夜も同じ駐車場で寝る。

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  しばらく私の周辺をウロウロしていたキタキツネ。人を恐れる様子はまったくない。

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  日本離れした素晴らしい山岳景観・・・

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  前の写真と同じ位置から、引いてみるとこんな感じ。 実は露天風呂から撮影していたのでした。

 最後の26日は予備日だが、登頂はできなくても山の予定はすべて滞りなくやり遂げたので、特になすべきことはない。で、何をして遊ぶか考えた結果、近くの旭山動物園に立ち寄ることにし、それを楽しんでから(これはホント、楽しかったです)新千歳空港に戻り18:35のフライトで20:45関空へ。予定通り21:30ごろ、自宅に無事帰還した。

 長丁場の山旅。登山は携帯用の酸素ボンベに頼りながらで、今回対象とした5座のうち2座は登頂すらできなかったが、ともあれ今の自分にできる範囲で登山者としての最善は尽くしたと思う。長期の野宿でさすがに多少疲れはしたが、釧路湿原以外は連日快晴にも恵まれ、充実した8日間だった。




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