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 安倍首相がいま開催中の衆院予算委員会で憲法改正への意欲を表明した。改憲自体は日本国憲法を敵視し、戦前体制への回帰をめざす首相の本願でありいまさら驚くにはあたらない。驚いたのは、その必要性を説くために挙げた理由だ。首相は「憲法学者の7割が、9条の解釈からすれば自衛隊の存在自体が憲法違反の恐れがあると判断している」「この状況をなくすべきではないかという考え方もある」と述べた。つまり、自衛隊の存在すらが違憲という憲法学の多数派の意見を容認したうえで、自衛隊が合憲となるよう憲法を変える必要があると説いたのである。

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。急迫不正の侵略行為に対し自衛の措置をとるのは憲法9条も否定していない国家固有の権利であり、それゆえ専守防衛の範囲であれば自衛隊も合憲としてきたのが歴代自民党政府の憲法解釈だった。この憲法解釈でも「専守防衛」の範囲を超えるため認められないとしてきた集団的自衛権を、閣議決定だけで合憲と変え、さらにそれを法制化までする無法を押し通したのは安倍首相自身である。

 今回、安倍首相が持ち出した改憲の必要性は、これまで圧倒的多数の憲法学者の意見を無視し合憲だと強弁して推し進めてきた集団的自衛権容認の全論理が、ウソだと認識したうえでつき通したウソと白状したに等しい。これほど国民、国会、さらには世の中を愚弄する態度は、首相に限らず政治家に限らず、およそまともな社会人ならあり得ないのではないか。にもかかわらず、安倍晋三にはそれを恥じる様子も悪びれる風も一切なくケロッとしているのだ。まともな神経を持つ人間なら信じられない光景ではないか。

 そう、この光景には既視感がある。あの東京オリンピック招致の演説での「アンダーコントロール」発言だ。福島第一原発の事故が収束していないことが誰の目にも明らかな状況でのこの発言に一瞬、耳を疑い、目がテンになったことを思い出す。処理不能の汚染水は増え続け、核燃料が今どんな状態にあるかは誰にも不明で、実に13万人の被災者が故郷を追われいまだ日本各地を放浪している。いったい、どんな神経があればあのようなあからさまなウソを平気でつけるのだろう。

 もう20年近く前に出版された『平気でうそをつく人たち』という書物がある。サブタイトルは「虚偽と邪悪の心理学」、著者は米国の精神科医で心理療法カウンセラーを営むM・スコット・ベック。当時ベストセラーの一角を占めたから、読まれた方も多いと思うが、著者は自らの診療経験から世の中には常人では想像が及ばないほど「邪悪な人間」がいると確信するに至り、本書の中で具体的にそうした人々との対話を提示しながらその精神病理を究明してゆく。

 詳しく紹介する余裕はないが、世の中にはたしかに「平気でうそをつける人間」が存在する。それは必ずしも監獄や悪の組織に棲息する人間というわけではなく、どんな街でも見かけるごく普通の人で学歴や社会的地位も様々だ。つまり一見普通なのだが、彼らに共通するのは自分には欠点がないと思い込み、異常に意志が強く、罪悪感や自責の念に耐えることを拒否する一方、他者に責任転嫁する技能で異常に優れ、対面や世間体のための努力を惜しまず、他人に善人だと思わることを強く望む、とベックは要約している。ベックは彼らの巧妙な責任転嫁の手法や隠微なウソを再現しながら、こうした人々の精神の核にあるのがつまるところ、「過度のナルシシズム」であることを解き明かしてゆくのだ。

 周知のとおり、安倍晋三のナルシシズムは見ていて気持ちが悪くなるというか、見るに堪えないほどに強い。国会の答弁はひとことで評せば無茶苦茶だが、一貫して尊大で、答弁に詰まれば責任転嫁で逃げる論法は手練れている。過去の皇軍の侵略や慰安婦問題の取り扱いでは罪悪感を受け止められない弱さがのぞく一方、自らを格好良くかつ親しみやすく見せる努力は欠かさない。政治家とはおしなべてナルシシズムの強い人種だろうと思うが、これほどまで極端な例は珍しいだろう。安倍晋三こそまさに、ベックが描き出した「邪悪な人」そのものではないか。

 ベックは、常人とこうしたある意味での異常者が争った場合、異常者が勝利するケースが多いことにも言及している。それは、勝利や名声に対する渇望の強さ、勝つために手段を選ばない非情さ、他者を蹴落とすうえでの仮借のなさなどで、異常者のパワーは常人をはるかに凌駕するからだ。ドイツを破滅のふちに追いやったヒトラーはまさにそういう人間だった。「ウソも100度繰り返せば真実になる」「ウソをつくなら出来るだけ大きなウソが良い」というのがヒトラーのやり方だ。ふたたび日本に登場した「平気でうそをつける」首相は、この国をどこに導いてゆくのか。  



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