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 足が衰えないようにすることと、心肺に適度な刺激を与えて鍛錬することを兼ねて、できるだけ毎朝4時半ごろから1時間程度、近所の方男波海岸を歩いているのですが、最近は夜明け前の東の空には冬の夜空のシンボルであるオリオンが大きく輝くようになってきました。どうやら今年の夏は、カッと強い日差しが照りつける日がほとんどないまま過ぎようとしているようです。

 そうした異常な気象下で起きた広島での土砂崩れ惨事。同時多発的にというか、豪雨による災害は遠く日本北端の礼文島でも起きています。個々の気象災害の原因は様々ですが、これらの背景に地球温暖化が大きく横たわっていることはおおむね、間違いないでしょう。

 地球温暖化自体は現在進行中の現象であって、止めることはできませんが、せめて人類や生態系に致命的なダメージを与えない範囲ということで世界が合意していた目標、地球の平均気温を産業革命から2度未満に抑えるという目標は、CO2など温室効果ガスの排出量が増え続ける中で、実現の可能性をほぼ失いました。このまま推移すれば、今世紀半ばにはその2度を超え、世界中で今に倍する気象災害が頻発する恐れがあります。ホント、国益とか、まして集団的自衛権とか、アホなことやってるヒマはないんだけどねぇ。

 それはまた別の機会に書くとして、以下はコジローが所属する紀峰山の会の会誌『紀峰の仲間』の巻末連載コラムとして出稿した文書です。ちょっと長いかもですが、路傍に咲く小さなスミレの見事な生活史戦略について書きました。



クマの毒舌コラム 植物百話2

スミレの見事な生活史戦略

 スミレは山で最も多く見かけるありふれた花のひとつだ。群生し株数が多いということはもちろんあるが、成熟した森林の林床や丈の高い草原など日光が入らない所は苦手で、もっぱら、樹林帯であっても薄日が差す登山道の脇や、木道が設けられた明るい湿原の周辺などに生育するため、登山者の目に触れやすいといった面もあるだろう。

すみれ

 このようになじみ深い路傍の花なのだが同定は容易ではない。スミレ科は15から20属に分かれ、そのうち最大のスミレ属だけでざっと200種、「スミレ王国」と呼ばれる日本にはそのうち約50種が分布するうえ、スミレの仲間はいま最も急速な進化の最前線にある植物グループのひとつで、亜種や変種、色変わり形変わりが次々に発見されているというから、なかなか素人の手におえるものではないのだ。

 さて、スミレの仲間はいずれも小さく可憐な姿をしているが、その生活史戦略はなかなかたくましくも巧みで、知れば知るほど深く感心させられる。

 早春、雪が融けまだ落葉樹が葉を出す前にスミレはいち早く花をつける。この時期であれば他の植物はまだ眠っているため受粉の媒介者である昆虫を巡っての競合が少なく、受粉を有利に進められるからだ。


スミレの花

 そのスミレの花は5弁からなり、上部の左右二枚が上弁、下部の左右二枚が側弁、さらに下部中央の長い花弁が唇弁(しんべん)と呼ばれ、その唇弁の奥に距(きょ)と呼ばれる袋状の突起がある構造をしている。この距こそがスミレ属の特徴で、この形を大工道具の墨壺つまり「墨入れ」に見立てて「スミレ」と名付けられたという説もあるのだが、ともあれ、ここには受粉の媒介者(ポリネーター)を呼ぶための蜜が蓄えられている。

 この蜜を吸うには、下向きに咲いたスミレの花に対し逆立ちで中空にホバリングしながら頭を突っ込み、さらに距まで長く舌を伸ばさねばならない。こんな芸当ができるのは昆虫の中でもハナバチの仲間だけだ。ついでの話だがハナバチは最初に訪れた花と同じ種の花を繰り返し訪れる性質がある。他の花に浮気されなければ効率の良い受粉が期待できるわけなので、スミレのようにポリネーターをハナバチ専属にした植物は少なくない。

 さて、スミレの花の距は、ハナバチが花の奥まで雄しべや雌しべをかき分けてギリギリに頭を突っ込み、一杯に伸ばした舌がやっと蜜に届く絶妙な間隔で設けられていて、蜜を吸おうとすればハナバチの全身が花粉まみれになったり雌しべに触れたりする仕組みになっている。ただし、ハナバチが花粉まみれになる花では雌しべは未熟なため自家受粉することはなく、次にハナバチが雌しべの成熟した花(その花では雄しべは花粉を出し終わっている=「雄性先熟」)に訪れた際に他家受粉が成立し、こうして遺伝的な多様性が図られている。

 しかし、夏になると上空には落葉樹が茂り、他の草本類も繁茂してきて受光条件が悪化するとともに、花も多く咲いてポリネーターをめぐる他の植物との競争も激しくなる。こうなるとスミレは戦術を転換、まずできるだけ茎を伸ばすとともに薄く広い葉を展開し乏しい日光を可能な限り確保して光合成を維持するとともに、地面近くに「閉鎖花」といってつぼみだけの花をつけ、この閉鎖花の中で雄しべと雌しべが同時に成熟して自家受粉を敢行するのだ。

 自家受粉ならポリネーターへの報酬である蜜も花弁も必要ないし花粉も少なくて済む。生まれる次世代は親のクローンであって遺伝的な多様性こそ望めないが、乏しい光合成産物でも可能な、極力コストを抑えた繁殖方法で種族の維持を図る見事な戦略なのだ。

スミレの果実


 受粉した雌しべは子房が膨らみ果実となって垂れ下がり、熟すに従ってそれが上向きになって、やがて三菱のマークのように裂開。さらに乾燥が進むと裂開したボートのようなさやの皮が収縮し、その圧力で種子は果実からはじき出される。こうした種子散布の方法を「自然散布」というが、飛散距離は最大5m以上にも達するという。

 さらに重ねてのスミレの工夫。その種子には脂肪酸やアミノ酸からなるエライオソームと呼ばれる付属体がついている。これが好物であるアリは、懸命にそれを種子から引きはがそうとするのだけれど、双方強固にくっついて離れない。そこでアリたちは、やむを得ず種子ごとエライオソームを巣まで運んで食料にするのだが、種子は食べられないため巣の外に運び出して捨てるわけだ。かくして条件が良ければ種子はそこで発芽する。スミレはここまで見通してアリを巧みに利用し、分布域をじわじわと広げてゆく。

 スミレの種類により、自然散布だけ行うもの、アリ散布だけ行うもの、その両方を併用するものがあるが、日本のスミレは大半が併用派だそうだ。

 スミレは山でももちろん見かけるが、町にも多い。交通量の多い道路の片隅やビルの裾など、コンクリートのわずかな隙間から顔を出しているスミレの花は、このようなアリを利用した種子散布戦略の成果とみて間違いない。たかがスミレ、しかし、知れば知るほど、まことに見事な生活史戦略を備えた偉大な生命体なのだ。次に山で可憐なスミレを見かけたら、ぜひ、その巧みにも健気な生き方に思いを馳せていただきたいと思う。


 (上記スミレの花はフリー素材から、花の構造図は「あれこれ・それなりクラブ」の、またスミレの果実の画像は「オモシロ自然観察」のサイトから、それぞれ借用して加工したものです。)

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