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 この夏山シーズンは週末のたびに天気が崩れ、コジローが所属する紀峰山の会でも、計画していた多くの山行が中止のやむなきに至りました。その夏山最後のチャンスとなった8月末の週末、このままでは不完全燃焼に終わってしまいそうなので、天気はイマイチでしたが当初の予定通り、北八ヶ岳に行ってきました。嵐でさえなければ、雨の森もまた良しです。北八ヶ岳を選んだのは、行程中の高度差が最大500mほどなので、肺に病気を抱える自分でもゆっくり登ればなんとかいけそうと踏んでのこと。山行行程には標準的なコースタイムの2倍弱の時間をあてて、無理のない計画を組んだつもりでした。

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 8月29日の夜に和歌山を出て、麦草峠の駐車場に到着したのが翌30日(土)の2時前。車中で仮眠して5時40分に行動を開始。かつて厳冬の山スキーで訪れ、思い出も深い麦草ヒュッテを右に見ながら、写真の山道に入ってゆきます。

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 小雨の中、その雨ゆえに林床のコケが生き生きと生命力を増したように感じられる樹林帯の気持ち良い道を、ゆっくり歩むと、1時間20分で雨池に到着。山霧で展望は効きませんが、そのぶん幻想的で悪くない雰囲気です。

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 森の中はこんな感じ。場所によって生えている樹種の優劣は異なりますが、標高2000m超の典型的な亜高山帯植生で、コメツガ、シラビソ、オオシラビソ、それに自生のカラマツの針葉樹4種が優勢で、これに広葉樹のダケカンバが混じり、林縁部など受光条件の良いところではさらにナナカマドやミネカエデなどが分布するといった感じです。ともあれ、きれいな空気を胸いっぱいに呼吸しながら、しっとりとした静寂の森を歩くのは最高に良い気分です。

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 カラマツなどの針葉樹につくサルオガセ。暗い森の中でちょっと不気味な雰囲気を醸し出していますが、地衣類の一種で光合成もする立派な独立栄養生物であり、寄生生物ではありません。根がないため水分は大気中から直接補給しており、そのゆえこの場所のように湿った霧が発生しやすい場所を好みます。

 サルオガセの語源は下緒苔(サガリオゴケ)の転訛(元の言葉がなまって変化すること)ではないかと言われていますが、猿に関係があるという説もありはっきりしません。また、コジローは先輩の山男たちから、サルオガセを煎じて飲むと男の浮気と女のヤキモチに効くという話も複数回聞いているのですけれど、試したことがないので真実かどうかはわかりません。しかしよくよく考えてみると、ヤキモチはともかく「浮気に効く」って、いったいどんな機序で効くんですかねえ… 良心に効くのかそれとも…

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 9時に双子池ヒュッテに到着しました。歩きだしてからここまで人っ子一人出会うことなく、小屋の周辺も無人でしたが、小屋の中には人の気配がありました。有料のトイレが使用可です。

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 ヒュッテのすぐそばにある双子池の雄池。霧に包まれて厳かな雰囲気を漂わせていました。

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 こちらが雌池です。

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 双子池からは、大岳を経由して北横岳に向かうのですが、この道が…、いやあ、メッチャ厳しい!
 双子池から、標高差たかが400m弱、自分のペースでボチボチ登ればいずれ着くとかなり安易に考えて歩き出したのですが、コースに入ってみれば大岩の連続。足を大きく上げたり、両手をかけて這い上がったり周囲の木にすがったり、さらには岩から岩へ飛び移ったりして体重を引き上げてゆかねばならず、これが心肺に大きくこたえる。
 さらに雨はこのときが最高潮で足元が非常に滑りやすい。岩と岩の間には深い隙間が随所に口を開けていて、万一滑ってこの穴に落ちて頭部を強打したら、生命にも関わる怪我になりかねない。長年登山をやってきましたが、これほどの悪路は珍しい。アルペン的な風貌が際立つ南八ヶ岳に対し、北八ヶ岳は静寂と優しさで売っていますので、こんな試練が待ち構えているとは思いもしませんでした。いやあ甘かった! で、声を大にして言いたいのですが、このルートはヘルメット必携です。 ヘルメットを持たないのであれば、同じ北横岳に繋がる瓢箪池経由のコースを取った方がはるかに安全です。
 で、やっとの思いでたどり着いた大岳(2382m)頂上がこの写真。風雨で何が何やらわかりませんけど。(^_^;) ともあれ登頂は12時半、雨の中、3時間あまりの激闘でした。

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 さらに似たような道を登り続けて14時20分、ようやく今回の最高標高点、北横岳(2472.5m)に着きました。展望は効きませんが、雨は少し小降りになったようです。

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 山頂から下ると10分ほどで北横岳ヒュッテに到着、14時40分でした。一日の行動は8時間50分ですから、コースタイムの5割増といったところでしょうか。まあ、これが特発性間質性肺炎患者コジローの今の体調での限界ギリギリいっぱいの山行でしょうね。というか、限界をちょっと超えてたかもです。

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 翌朝、相変わらず展望は効きませんが、とりあえず雨は上がりましたので、6時40分に北横岳ヒュッテを出発。写真はこの日最初のピークである三ツ岳三峰から二峰を望んだところ。ご覧の通りの岩山です。
 前日、小屋に着いて宿帳にその日の行程を書き込んでいたら、若い主人が「大岳から来られたのですか、大変な所でちょうど雨が大当たりだったでしょうね」と労(ねぎら)ってくださったので、「明日は三ツ岳経由のつもりですが、道はどんな感じですか?」と尋ねました。これに対し主人、「まあ、大岳ほどではないですけどぉ…」「でもまあ、せっかく大岳を登られたのですから、ついでに三ツ岳も登っておかれたら」。
 はい、たしかに大岳ほどのことはありませんでしたが、やはりそこそこの険路で、しっかり息が切れました。

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 歩くうちに、だんだん天気は回復してきました。こうして、かすかに南八ヶ岳も… 中央の高い山が八ヶ岳の主峰赤岳、その右の雲がかかった高い山が阿弥陀岳です。ん~、もうちょっとスッキリ見えて欲しかったな。

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 この日の最高標高点、縞枯山(しまがれやま・2403m)には10時に到着。申し訳程度ですけど、青空も見えてきました。

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 さらに茶臼山(2384m)のピークを踏みます。この山頂は樹林に覆われて展望は皆無です。

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 中小場(2232m)から振り返ったところ。左が茶臼山、右が縞枯山です。
 そうそう、ここでオコジョに出会いました!
 これまでの長い山行生活で、シカやカモシカは数しれず見ていますし、クマにも三度、モモンガにも一度出会っていますが、オコジョは初めてでしたので大感激。中小場の標識を立ててある岩屑の隙間から顔を出して、こちらの様子を伺っていました。短い時間の上に動きが素早く、とても撮影はできませんでしたが、穴の中に引っ込んではまた別の穴から顔を出し、5~6回は対面したでしょうか。イタチの仲間で小さいながら獰猛な肉食獣とのことですが、その姿はメッチャ可愛い。各地でイメージキャラに好んで採用されるわけです。野生の実物を見られて本当に幸運でした。

 オコジョを見られた幸運に感謝しつつ斜面を下り続けて12時45分、麦草峠の駐車場に無事、帰還しました。

 雨にたたられはしましたが、それはまあ、当初から織り込み済み。雨の山も大好きですからよかったです。ただ、大岳の登りの厳しさが想定外で、あらためて自分の心肺の限界を思い知らされる体験をしました。 もう、これ以上に厳しい山はどうやら無理みたいです。残念ですが、まあ、こんな身体でもまだ歩ける野山や森はたくさんあると思いますので、無理をしない範囲でこれからも自然の中でつつましく遊ばせてもらおうと思います。次は来週末、8月初旬に雨で順延になった富士山です。 


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