前回にこのブログを更新してから、早くも1カ月以上もたってしまいました。この間、あちこち新緑の森をウロウロと徘徊して、書くネタは写真も含めどっさりあったのですが、ウロウロしすぎたのと仕事がまた忙しくなったのとでまったく時間が取れず、そのうちにせっかくのネタも次々に古くなって賞味期限が切れ、更新できずに来てしまいました。 毎日とはいかずとも、頻繁に更新しているブロガー、本当に大したものだと思います。

 さて、前回のブログで取り上げた大阪都構想、その是非を問う住民投票は僅差で反対派が勝ち、橋下さんは政界からの引退を表明しました。まあ、とりあえずは良かったと思いますけれど、橋下さんが知事になって以来の7年、大阪府市民はその思い付きのパフォーマンスに振り回されて貴重な時間を失いました。これ以上それが続かなかったことは不幸中の幸いというべきですが、成熟しない民主主義はときとしてこのような失敗をしてしまうのですね。今の安倍政権ももちろんしかりです。

 そんな生臭い話はまた別の機会にするとして、とりかくブログを更新するために、コジローが所属する紀峰山の会の機関誌に書いた巻末コラムを以下に転載します。 梅雨時の森で登山者を歓待してくれるアジサイの仲間に思いをはせてみました。




       植物百話 5
                          アジサイ

 岩登りや沢登りで雨は困るが、ハイキングなら雨の山もまた良しでなんら不都合はない。紀峰では最近、ハイキングでも雨で中止にする例が増えているようだが、よほどの大雨や台風ならともかく、多少の雨で山行を中止にするのはなんとももったいない、と、古い山屋は思う。爽快な展望は期せないが、雨なればこそ一層生命の輝きを増す森の宇宙に深く浸(ひた)れる貴重な機会を、なぜあたら手放してしまうのだろう。山岳自然に深く触れたいと望むなら、雨をも親しい友とするにしくはない。

 そんな雨にけぶる梅雨どきの森を歩むとき、みずみずしく花をつけて登山者を迎えてくれるのが、アジサイの仲間たちだ。

ajisai.png
 ガクアジサイ きみどりさんのWebsiteからお借りしました

 街で見かけるアジサイは園芸品種で、その原種はガクアジサイだろうと言われている。そのガクアジサイを含めアジサイの仲間で花びらに見える部分は実は「がく」で一般に生殖機能を持たず、「装飾花」と呼ばれている。ガクアジサイでは3~5弁の白い装飾花がそれこそ絵画の「額」のように周りを取り囲むなか、雄しべ雌しべを備え生殖機能がある「両性花」の小さな花が多数密集して咲いているが、園芸品種では両性花は退化して装飾花だけになっているものが多い。

 山で装飾花が目立つ樹種としては、アジサイの仲間のほかにはムシカリ(=オオカメノキ)やヤブデマリなどガマズミの仲間や一部のウツギ類などがある。いずれも山霧がしっとりと漂うような情景に清楚な花が映えて美しいが、この繁殖に関係のない装飾花が生まれた意味をどうとらえれば良いのだろう。

 すべての生命に共通する関心事は、少しでも多く子孫を残すため繁殖を有利に進めることだ。そうした観点からいえば、繁殖に役立たない装飾花を付けることは植物にとりエネルギーや資源の無駄遣いに思えるが、受粉を媒介する昆虫はまず装飾花にやってくるという。つまり、目立つ装飾花は昆虫を呼び寄せる標識として役立っており、その分、繁殖を担う両性花は虫を呼ぶための仕掛けを省き、作りを極限まで小さくしてたくさんの花をつけることができる。またその花の小ささのおかげで、昆虫が一度這い回るうちに多くの花が一斉に受粉することもできるらしい。かくしてトータルでみれば、無駄なように見える装飾花は植物の繁殖戦略のソロバン勘定に十分合っているというわけだ。

 アジサイはその学名をめぐる逸話でも知られる。幕府禁制の日本地図を持ち出そうとして国外追放されたドイツ人医師シーボルトは有能な博物学者でもあって、帰国後に日本で魅せられたアジサイをヨーロッパに紹介。一女をもうけた事実上の妻「お滝さん」への想いを込め「otakusa」と命名したという。学名はすでに登録されていたためその名は残らなかったが、日本ではアジサイをそう呼ぶとシーボルトが説明したとの話もあり、彼がお滝さんにどれほどこだわっていたか、本当のところ定かではない。しかし、濡れそぼりつつ凛と咲くアジサイに当時20代の若者が、再びまみえることの許されぬ女性への尽きぬ想いを託したという解釈の方が、涙雨の情景に似合うことはたしかだ。

 雨具をまとって歩くのは少々面倒だが、雨なればこそしめやかに去来する思念もある。この季節、ガクアジサイやツルアジサイの花に、生命の不思議や幕末の悲恋に思いをはせつつ山中を彷徨するのも悪くないと思うが、いかがだろうか。



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