2015.08.26 夏の志賀高原
 もうかなり時間が経ってしまったのですが、私が所属する紀峰山の会の機関誌に載せた山行報告です。


       夏の志賀高原                               

 志賀高原と聞いて直ちに連想するのは冬のスキーだろう。豊富な積雪に恵まれ、広大な高原に80本を超えるリフトを縦横にかける日本最大のウインターリゾートなのだから、それは当然のことだ。しかし、実は夏の志賀も捨てたものではない。森林限界を抜くような高峰こそないが、山地帯から亜高山帯に広がる天然林に多くの池や湿原が点在し、美しい景観と多彩な花が訪れる者を魅了する。登山者がよく使用する昭文社の『山と高原地図』の一巻として「志賀高原」が採用されていることからも、それは理解されよう。

 とはいえ冬に比べればやはり、夏の志賀高原への来訪者は圧倒的に少ない。スキー宿はどことも閑古鳥で、窮余の策として東京の学習塾から小中学生の合宿セミナーを大量に受け入れてしのいでいるのが実情だ。今回の山行ではそんな塾生、「必勝」と大書したハチマキを締めた子どもたちを満載した大型バスが百数十台も連なる異様な光景を目撃して仰天した。東京の教育はこんなことになっているのか。この国はやはり病んでいるのではないのか。

 自分が過去に一度、夏の志賀高原を訪れたのは15歳の時だった。当時、長野市に単身赴任していた父が、たまには父親らしいことを…とでも考えたのか、乏しい貯えから奮発して大阪に住んでいた家族を呼び寄せ、山麓の上林温泉に宿舎をとって案内してくれたのがこの志賀高原「池めぐりコース」の一部だった。それから半世紀近くが経過し、その父は既に亡い。考えてみれば、当時の父は今の自分より20歳も若かった。その父の背を見ながら息を切らせて山道を登り、ようやく池が見えてホッとした記憶が鮮明に残っている。志賀高原を再度訪ねて、よしんばその記憶を確かめるのも今回の山行に期すささやかな思いだった。

 前置きが長くなったが、かくして8月6日、夜に臨時の仕事が入って当初の予定より大幅に遅れたが夜半に和歌山を出発、ちょうど夏山リフトが動き始める翌7日の9時前に高天原ゲレンデに到着した。早速身支度を整え9時10分にリフトに乗車。初日の今日は寺子屋峰から志賀高原の主稜線を縦走して岩菅山に登頂し、大きく周回してスタート地点に戻る計画だ。リフト終点から少し登って東館山の山頂にある高山植物園を経由して登山道に入る。同植物園には多くの高山植物が植栽展示されており、これだけでも結構楽しめる。植物園からしばらく歩くとやがて寺子屋ゲレンデに飛び出し、そこからひと登りで寺子屋峰(2125m)、さらに登って主稜線上の金山沢の頭に達したのが11時だった。2000mの気圧の低さはやはり厳しく、当初想定したより時間がかかっている。その想定もかなり余裕を見たつもりだったのだが…

 主稜線を北東へ岩菅山(2295m)を目指す。稜線上の道は右に豊かな樹林に覆われた魚野川の源流域を広く俯瞰して爽快だ。背後には快晴の空をバックに横手山もくっきりと見える。岩菅山の登路が始まるノッキリの分岐には12時半に到着。そこから岩菅山山頂までそう距離はないが、厳しい急登の道が草原を貫いているのが見えた。時計と体調を見て自重し下山を決定。15時過ぎ、高天原ゲレンデに戻って車を回収、木戸池まで走って自炊し車中泊した。

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 主稜線の道は爽快、正面にめざす岩菅山がくっきりと見えたのだが・・・

 8日は長距離の「池めぐりコース」を木戸池から全て徒歩で周る予定だったが、前日の体調を考慮してリフト利用へ計画を変更。夜明けと同時に起床後、リフトが動き出すまで時間があるので周囲を散策し、木戸池から小さな峠を越えて、田野原湿原が霧に沈む、素晴らしく幻想的な光景に出会うことができた。やはり早起きは三文の得だ。(下の写真でその絶景ぶりが伝わるだろうか)

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 前山リフトに車を回し8時10分の始発に一番で乗車。リフトの終点が前山湿原でこれを通過してひょうたん池をピストンし、さらに渋池、四十八池へと、登山道にしては広すぎる道をゆっくり登りながら、次々に池を巡ってゆく。四十八池は高層湿原で、志賀山を借景に箱庭のような美しさだ。さらに足を伸ばし小さな登りと急峻な下りを経て11時、エメラルドグリーンに輝く大沼池に達した。この池の宝石のような美しさ、特にやや高い位置から見下ろす情景は筆舌に尽くしがたい。

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  箱庭のような四十八池、背後は左が志賀山、右が裏志賀山

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  宝石のように美しい大沼池

 大沼池の周囲を巡るとやがて未舗装の林道となり、さらに塾の生徒を満載したバスが頻繁に行き交う舗装道に出たので、これを歩いて12時40分、蓮池のバス停に達した。そこで40分ほど待ってバスに乗り、前山リフトまで戻って車を回収。道草を食いながら志賀草津道路を快適に走って、万座温泉の豊国館には15時すぎに到着した。豊国館は昔ながらの湯治の宿で素朴かつリーズナブル(一泊二食でも6500円、自炊なら3500円)、しかし白濁したお湯は万座一との評判だ。その世評に間違いはなかった。

 最終日の9日は本白根山に登る予定だったが、同山の周辺には厳重な噴火警戒の入山規制が敷かれていて、山登りどころか駐停車も厳禁。仕方がないので木戸池に戻り、前日、出発を遅らせた関係でカットした「池めぐりコース」の残り「木戸池~蓮池」間を9時半から歩き始めた。そして、歩いてみて確信したのだが、この道こそが約半世紀前の中学三年生の夏、父の背を見ながら歩いた道だった。ガラにもなく少し感傷的な気分になりつつ次々に小さな池をめぐって11時過ぎに蓮池に到着。20分後のバスに乗って木戸池に戻り、和歌山への帰路についた。本白根山の入山規制は事前の調査不足だったが、そのおかげで追憶の道に再会することができたのだから、まあ、良かったとしよう。ともあれ、このように志賀高原は夏に訪れても見所は多い。いちいち書かなかったが出会える高山植物の種類も多彩だ。体力的な負担も小さく、山好きにはもっと歩かれて良い山域だとあらためて思った。

おまけに生物の写真を少しだけ

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  コバギボウシ、今が盛りで、池の周囲など湿っぽいところでは沢山咲いていました。

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  ウスユキソウ、これは少なかったです。ウスユキソウにもいろいろ種類があるのですが、これは接頭語が何もつかない普通のウスユキソウだと思います。

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  蓮池ではその名のとおり、ハスが満開でした。

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  やはり蓮池で咲いていたコウホネ。

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  木戸池で自炊していると小鳥が遊びに来ました。ハクセキレイだと思うのですが、鳥は自信ありません。


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