「綸言(りんげん)汗のごとし」という古代中国由来の格言がある。綸は太い糸、帝王が発する言葉は細い糸のように些細なものでも、重大な効果を及ぼすことから綸にたとえられ、それゆえいったん口にした以上、かいてしまった汗のように元に戻すことはできないという意味だ。 ひるがえって、およそ人の上に立つ者、言ってしまったことは取り返しがつかないことを肝に銘じ、十分その結果を熟慮して言葉を発しなければならないとの戒めも込めている。

 今更ながらだが、我が首相の言葉はあまりにも軽すぎる。軽いどころか、品のないヤジもあれば周囲が赤面するような傲岸不遜な自慢もあり、さらにウソも平気でつくという調子だから、糸ならすでにちぎれて用をなさない程度の代物だ。そんな首相の軽口の中でも今回のG7における「リーマン危機前夜」という妄想発言にはさすがに恐れ入った。こんな人物をいつまでも首相にしておいていいのか。

 誰もが知っていることだが、これは公約であった消費税増税を回避せざるを得なくなった言い訳を、自らの失政による日本経済低迷を棚に上げて外部環境に求めるための下手な芝居にほかならない。ドイツのメルケル首相はじめ他の首脳らはさすがに同調せず、猿芝居は不興を買うだけだったが、三文役者はへこたれないのであって、「危機感を共有した」とまたしも平気でうそをつく。

 問題はいくつもあるが、まず、この安倍首相の経済情勢認識は安倍内閣のそれとは正反対ということだ。安倍内閣はこのトンデモ発言のわずか3日前の24日、経済関係閣僚会議で現下の経済情勢について「全体としては緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される」としている。それから何の調査も手続きもなしに、その内閣の責任者の口から「危機前夜」という警報が出るのだ。今の内閣の閣僚の面々、これだけコケにされてなんで怒らないのかわからない。ま、言葉の軽さについては同程度だから、怒るって感覚もないのかもしれないけど。

 次いで、では安倍がG7の首脳たちに得意満面で回した資料についてだ。第一次産品の下落率など、リーマンショック前に類似したデータをつまみ食いしてまとめたもので、不動産バブルの崩壊というリーマンショックの本質とは何の関係もない紙屑だが、こんなもので世界の首脳たちをけむに巻けるとマジで思っているらしいこの男の脳みその程度が、日本国民としては本当に顔から火が出るほど恥ずかしい。

 しかも、これはびっくり仰天もいいとこなのだが、この資料を作ったの誰かが外務省も内閣府もわからないらしい。正式の外交交渉で国の代表が使用する資料を、それを支える事務方が一切知らないって、ええ?、そんなことが現代の外交でありえるのか? ってことは、「リーマンショック前夜」って言えるデータをかき集めることを目的に、誰かが作成した怪文書じゃないか。そんないい加減な怪文書まがいの図表類を、世界の首脳たちの前に得意そうに晒すバカをどうすればいいのだ。

 それから、もし万一、G7の閣僚たちが例えば苦境に立つ安倍君に対する惻隠の情から、「危機感を共有」したとしたらどうなったか。世界経済を引っ張る経済大国の責任者がそろって「リーマンショック前夜だあ!」と叫んだ情景を想像してみてほしい。世界の株式市況、原油相場、金融界、投機筋はどのように反応したか。彼らにとっては、首脳たちの発言が真実かどうかは二の次で、ともかくそれが呼び起こす波動に乗っかって儲けられさえすればよいのだ。利ざや目的の空売りが空売りを呼び、市場が大混乱する可能性は非常に大きい。下手すれば、ウソから出たマコトで、リーマンショック並みの金融市場暴落が起きてもおかしくはなかった。生き馬の目を抜く市場に限っては、現代も首脳たちの言葉は「綸言」に近い重みがある。慎重のうえにも慎重でなければならないのだ。

 はあ、もう書けば書くだけ嫌になるし情けなくもなる。なんで我々は、こんな自分のことしか考えられない史上最低の人物を内閣総理大臣にしてしまったのだろう。なにがなんでも、次の選挙で痛い目に合わせなければならない。



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