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 3月27日朝、那須温泉ファミリースキー場のゲレンデ付近の斜面で、栃木県高校体育連盟主催の春山登山講習でラッセル訓練中の高校生や指導教員が雪崩に巻き込まれ、28日午前時点で8人が死亡、40人が重軽傷を負う大遭難事故が発生した。

 山での遭難事件をウオッチングし続けている者として、雪山で公的機関が行う教育訓練で発生した死亡事故というと、指導教員一人が死亡した1983年の北アルプス五竜遠見尾根での雪崩事故、受講していた大学生二人が死亡した2000年の北アルプス大日岳での雪庇崩落事故をすぐに思い出す。いずれも雪の状態を読み誤ったことが遭難につながったが、今回も同じ轍を踏んだ可能性が高い。

 事故現場に近い観測点では27日1時から9時までに33cmの積雪を記録、また生還した高校生はスキー場に設置したベースキャンプで50cmほどの積雪があったと話しており、季節はずれの大雪が降ったことは間違いない。全国的に一週間ほど前から春を思わせる暖かい日が続いていたが、三日前から冬に逆戻りしたような低温となった中での大雪だった。

 こんな気象条件のときに山にいて想像するのは、気温上昇で表面が溶けた雪の斜面が再び凍るいやらしい雪質だ。積雪の深さ、斜面の向きや斜度などで状態は千差万別だが、おおむねカチカチのアイスバーンか表面だけ凍って中はフワフワに柔らかいいわゆる「モナカ雪」となる。いずれも春山の歓喜のイベントである山スキーには嬉しくない雪で警戒心が高まるが、さらにこれに新しい雪が大量に積もるとなると、心中には表層雪崩の怖さがむくむくと頭をもたげてくる。

 弱層テストといって、雪中に表層雪崩が起きる滑り面の有無を確かめる技術があるのだが、今回のような気象条件であれば、斜面に入る前にその弱層テストを欠かすことは絶対にないだろう。また、弱層テストを行うまでもなく、50cmもの大量の降雪があったとなれば、新しい雪が斜面に落ち着くまでは動かないのが冬山の常識だ。今回、このラッセル訓練では8人の教員が指導に当たっており、冬山のベテランも含まれていたという。なのに、こうした冬山の常識がなぜ顧みられなかったのだろう。

 あくまで現時点での私見だが、「ゲレンデに近い」ということが指導者たちの判断を誤らせた原因ではないか。指導者たちは、当日、本来なら予定していた那須岳への登山は賢明にも中止している。2泊3日の訓練の最終日のことだ。それまでの訓練の内容は現時点で知る由もないが、常識的に考えて恐らくアイゼン歩行やピッケルの使用法、滑落停止法の反復練習や、雪中での幕営方法、生活技術などが教示されたことだろう。那須岳への登山はそうした訓練の仕上げとなるメインイベントだったはずだ。

 それがなくなったとき、もちろんすぐに撤収して帰る選択肢もあったわけだが、リーダーは教育者であるがゆえに余った時間を生徒たちの今後のために活かそうと考えたに違いない。深雪の中に進路を拓くラッセルは冬山技術の中でも最も体力を消耗する辛い作業だが、一面、全身雪まみれになって童心に帰るような楽しさもある。せっかくの春山登山講習、メインイベントであった苦しい登高の末の那須岳登頂の喜びに代えて、苦しくも楽しいラッセルを体験させようとした指導者たちの考え方は理解できる。

 また、那須岳登頂が天候等の都合で中止となる可能性は元々かなり高いわけだから、その場合のエスケーププランとしてラッセル訓練が最初から組み込まれていたこともありそうなことだ。というか、登山計画を立てる常識から言えば当初の行動計画が不能となった際の選択肢を予め決めておくことは必須であるから、当然そうなっていなければならない。この春山登山講習は10年以上の実績があるというから、過去にも那須岳登山に代えてラッセル訓練を行ったケースがあったかもしれない。だとすれば、それも今回の遭難事故の伏線になった可能性がある。

 雪崩が起きた斜面の状況はよくわからないが、映像と地理院地図で確認できる範囲ではスキー場はすり鉢状のなだらかな谷にあって、雪崩が起きた現場はゲレンデ下部から見上げて左側(南側)奥の斜面の疎林。映像ではさらに上は木立が薄く開けているように見える。地図ではゲレンデから奥(東)には水平距離100mで標高差100mになる40度超の急峻な斜面が立ち上がっているから、映像で木立が薄く見えていたのがこの急斜面かも知れない。もちろん、この斜度であれば雪崩が起きることに何の不思議もない。ここで発生した雪崩が下部の疎林にいた高校生らを呑み込んだのだろうか。

 いずれにせよ、現場はレジャー施設であるゲレンデに隣接する、どこにでもあるたいして傾斜のない斜面だ。その斜面自体は雪崩が起きるような場所ではないし、その証拠に成木も生えている。そうした訓練場所への安易な認識が、雪崩への警戒心を緩ませてしまったのではなかったか。さらに、過去、同じ場所でラッセル訓練をしていたとすれば、その慣れから雪崩についてのあらためてのリスク評価もなおざりにされたかもしれない。自然の脅威はそうしたベテラン指導者たちの心の隙を突いたのではないか。

 幕営での寝泊りを含む訓練を指導する教員らには頭が下がる。生徒たちをたくましく育てたい熱意なしには成し得ない、単に山が好きなだけでは務まらない仕事だ。それだけに業務上過失致死傷に問われざるを得ない今回のような事故が残念でならない。本来、決してあってはならない事故だった。だがだからといって今回の指導教員らの判断ミスだけに責任を被せるのも違うと思う。少なくとも公的機関が教育として行う山岳訓練の指導者については、その実力を高めるよう援助するとともに客観的にその力量を評価するシステムが必要ではないか。過去に起きた雪山訓練中の事故ともあわせ、そのことがあらためて問われなければならない。山好きな教師の善意だけに任せる現状のままでは、再びこうした事故が起きることを防げない。文科省と高体連は、およそ登山文化とは無縁な「山岳競技」などという愚にもつかないことにいつまでも執着するのではなく、登山指導者の養成システムをこそ整備すべきなのだ。               (合掌)


 山の話題関連ということで、今回の一枚は「秋の八ヶ岳」(コットマンF4)。東方から望んだ姿で中央が赤岳になります。



170306 八ヶ岳 (2)サイズ



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