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 さて久しぶりに病気の話。病状が進み、呼吸機能がますます落ちて、短い距離を歩くのも大変になってきた。そろそろゴールが近いことを実感する。

 いま命が終わることをゴールと書いたが、これは偽りない正直な感覚だ。命が終わることはただ自然なだけであって、たとえこれが自分に関わることであったとしても特にそれ以外の感慨が湧くことはない。寝床で天井を見上げて過ごす時間が増えてきて、折にその時のことを考えたり想像してみようとしてみたりもするのだけれど、世に言うような恐れといったものは全く感じない。まあ、これはたぶん自分が唯物論者であるからだろうと思うが、もしかしたら世の平均的な人々に比べ想像力が不足しているせいかもしれないし、恐怖を感じる感情が欠落しているせいかもしれない。いずれにせよ、命が終わることがなぜ怖いのかが全然理解できないのだ。ただ、それがゴールという感覚だけは明確にある。

 自分は自分の人生という長距離走を走っている。路上に他の走者はいない。走っているのは自分ひとりだけだ。だからこのレースに勝敗はない。そしていまは、長いあいだ無事走り続けてゴールとなる陸上競技場が見えてきたところだ。競技場にまっすぐ伸びる進入路が白く光ってくっきりと見える。そこを走り抜ければまもなく、トラックに続くゲートをくぐるだろう。これまでの緊張がやや薄れ、あと少しでゴールできそうだという少し安堵した気持ちが湧いてくる。

 自分の場合、自宅では呼吸不全の対応が難しいので、その時は病院で迎える事になるだろう。ただ、そこまで病状が悪化したとなると入院してもできることは限られている。きちんと確認したわけではないが、呼吸不全に伴う著しい苦痛に対処するためモルヒネが投与されるはずだ。というか、命が尽きるのは全然かまわないが、それまで苦しむのは絶対に嫌なので、そのように対処してくださるよう緩和ケアの担当医師に重々お願いもしている。ということで、ケアがこのような段階となれば恐らく傾眠状態となって意識が薄れ、周囲とのコミュニケーションも困難になるのではないかと思う。

 ここで自分が思い浮かべるのは、いよいよ陸上競技場のトラックに走り込んだ自分の姿だ。白いテープを張り渡したゴールはしっかりと見えている。残すはそこまでトラックを1周と少し、ざっと500mほどのビクトリーランだけだ。一人だけのレースでビクトリーもなさそうなものだが、他者とのコミュニケーションが成立しなくなった状態の自分はきっと、緩和ケアの助けを借りて苦しむこともなく、ゆっくりとしたペースでひとり、最期のビクトリーランを楽しんでいることだろう。

 さて、しかしそれまではまだ痰や咳との戦いが続く。肺の機能が落ちた中での咳は本当に苦しい。「息切れ」なんてなまやさしいものではない。ひどい時はあまりの苦しさに気絶しそうになるほどだ。だが、これとも戦い続ける中で、やや苦しさを緩和できる方法を見出してきた。もしかすると同じような咳に苦しむ人や緩和ケアに携わる医療者の役に立つかも知れないので、自分が編み出してきた咳への対処法を書き遺してしておこうと思う。

*咳は痰を出すために励起される。苦しいのは、痰がきれるまで咳が続き、その間、満足に呼吸ができないからだ。特に肺機能が低下した患者の場合、この苦しみは著しく大きい。

*痰をなくすことは不可能だから、咳を完全にストップすることはむつかしいが、できるだけ少なくしたい。そのためには、痰が切れるかどうかわからない状態でひっきりなしに励起してくる咳が勝手に暴れるのを食い止めることだ。咳だけして痰が切れなければ、苦しみだけを繰り返すことになってしまう。

*そのために、咳が励起してくる兆候を感知したら、とにかくこれを抑え込む対策を取る。喉がガラガラしてくるのを抑えるということだが、そのため自分はのど飴、こんにゃくゼリー、氷、冷水、ホットレモン、のどスプレーなどを試してきた。いずれも有効で好みのものを状況に応じて使い分ければ良いと思うが、いろいろ試してきて自分が今一番効果が高いと感じているのは氷またはアイスクリームだ。これでガラガラする程度の喉はなだめることができる。

*さらに進んで小さく咳が噴き出してくるようになっても、まだこの段階では痰が切れる確証はないので咳を許さない。その方法はなんというか、もう、全身の筋力を動員して咳を抑え込むって感じだ。とにかくギリギリいっぱい、もう我慢ができないというところまで咳を止める。止めることができたら、すかさず氷なりこんにゃくゼリーなりで興奮した喉をなだめる。全身の筋肉が凝り固まるが、とにかくギリギリいっぱいになるまで咳の回数を減らすことが最優先だ。

*それでももう咳が避けられなくなった段階。こうなれば少ない咳で痰を排出できる可能性が高いので、これを感知したら、まず酸素を最大流量に上げてSpO2を最高度にあげ臨戦態勢を整える。自分の場合は最大流量にしたうえでパイプからカニューラを外し、パイプについた連結器を口に入れて直接酸素を気管に取り込むようにしている。こうして込み上げてくる咳を迎え撃ち痰を出すのだ。

*かくして咳がやってくる、しかしそれでも咳が勝手に暴れるのを許しはしない。この段階でも必死に抵抗して咳は3回以上は続けさせず、途中で無理やり呼吸を挟む。必死の努力で呼吸を続けるのだ。気絶するほど苦しいのは咳が続く一方で酸素が補給されずSpO2が下がりきってしまうからだ。咳き込んでいる途中でも呼吸を意識し、少しでも酸素を補給できれば、その分だけ苦痛を軽くすることができる。

*いずれ咳が避けられないと判断したときは、吸入器を使う手もある。寝る前など、きちんと痰を切っておきたい時は、前述のような万全の態勢を整えた上で吸入器を使い、咳をこちらから呼び出して対応することもある。しかし、肺の中をすっかりクリーンにしようと吸入器に頼りすぎると、次々に咳が励起され止まらなくなって難儀したことがあるので、せいぜい2回痰を排除する程度で止めている。

  以上、少しでも同じ症状で苦しむ人のヒントになればうれしい。

 が、まあ、いずれこんな対応でもどうにもならなくなる時が来るだろう。それが入院のタイミングであり、先の例えで言えば競技場のトラックでのビクトリーラン開始の合図だ。今はただ、それまでの日々が、できるだけ平穏であることだけを願っている。


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